【STPR】誹謗中傷を繰り返していた10代男性への対応は「甘い処分」?自主申告や裁判はどうなった?【すとぷり】

 

2025年10月7日、多くのファンが胸をなでおろすニュースが発表されました。

人気クリエイターが多数所属する株式会社STPRが、所属クリエイターに対する悪質な誹謗中傷行為を行っていた人物との紛争が解決したことを報告したのです。

 

発表によれば、加害者は10代の男性。

X (旧Twitter)上で執拗に「犯罪者」といった言葉を投げかけ、侮辱的な投稿を繰り返していました。

しかし、驚くべきことに、この紛争は裁判での判決ではなく、加害者側からの「自主的な申告」によって和解に至ったというのです。

 

このニュースに対し、ファンからは「対応してくれてありがとう」「クリエイターが守られてよかった」と安堵の声が上がる一方で、一部では「自主申告すれば許されるの?」「処分が甘いのではないか?」といった疑問や懸念の声も聞かれました。

 

STPRは何を発表したのか?公式発表の要点を再確認

まず、議論の出発点として、STPRが発表した内容を正確に整理しましょう。

  • 事案の概要: X(旧Twitter)において、所属クリエイターに対し「犯罪者」等の誹謗中傷や、クリエイターのイラストを用いた侮辱的な内容の投稿を繰り返していた。

  • 加害者の属性: 10代男性。

  • 解決の経緯: STPRが対応を進めていたところ、加害者本人およびその保護者から早期に自主的な申告と謝罪があった。

  • 解決の内容: 賠償金などには触れず、今後同様の行為を行わないこと、保護者が対象者への指導・監督を行うことなどを誓約する「合意書」を取り交わし、紛争の解決とした。

  • 企業の今後の姿勢: この件以外にも、複数の誹謗中傷案件で裁判手続きが進行中であり、今後も民事・刑事上の法的措置を含む毅然とした対応を継続していく。

 

この発表のポイントは、「加害者が未成年であったこと」「自主的な申告があったこと」「金銭ではなく合意書で解決したこと」そして「他の案件では裁判も辞さない姿勢を示していること」の4点です。

一見すると、非常に温情的な措置に見えますが、その背景には、私たちが想像する以上に複雑でシビアな現実が横たわっています。

 

 

匿名アカウントはなぜ特定されたのか?

多くの人が最初に抱く疑問は、「どうやって匿名の投稿者を特定したのか?」でしょう。

今回のケースでは「自主的な申告」があったとされていますが、それは決して加害者が突然良心に目覚めたというわけではないでしょう。

その裏には、「発信者情報開示請求」という、非常に強力な法的プロセスが存在します。

 

これは、匿名で投稿した人物の「現実世界での身元」を明らかにするための手続きで、通常は弁護士を通じて行われます。

その道のりは、決して平坦ではありません。

 

 

  • サイト運営者へのIPアドレス開示請求
    まず、STPR側の弁護士は、問題の投稿が行われたX社などに対し、「投稿者のIPアドレスとタイムスタンプを開示せよ」という「仮処分」を裁判所に申し立てます。
  • IPアドレスとは?:インターネット上の「住所」のようなものです。この時点では「東京都〇〇区の△△というプロバイダ回線から」といった大まかな情報しかわかりません。

  • タイムスタンプとは?:投稿が行われた正確な日時の記録です。

裁判所が「この投稿は権利侵害にあたる」と判断すれば、サイト運営者に開示命令が下ります。

海外の企業が相手となることも多く、専門的な知識と経験が必要です。

 

 

  • プロバイダへの契約者情報開示請求
    次に、開示されたIPアドレスから、その投稿者が利用したインターネットサービスプロバイダ(ドコモやソフトバンクといった携帯キャリア、NTTやJ:COMなどの固定回線業者)を特定します。

そして、そのプロバイダに対して、「指定した日時に、このIPアドレスを使っていた契約者の氏名・住所・連絡先を開示せよ」という訴訟を提起します。

ここが、今回のケースの核心に迫る部分です。

 

 

HIKAWA
裁判所から訴訟を起こされたプロバイダは、契約者に対して「あなたの情報開示を求める裁判が起こされていますが、開示に同意しますか?何か意見はありますか?」という通知(意見照会書)を送付します。

 

想像してみてください。

ある日突然、自宅に裁判所とプロバイダからの分厚い封筒が届くのです。

未成年者の場合、契約者は親であることがほとんど。

 

つまり、この通知によって、子供がネット上で何気なく行っていた誹謗中傷の事実が、親の知るところとなります。

 

家庭内で大問題となり、事の重大さを悟った本人と親が、相手方の弁護士に連絡を取り、「申し訳ありませんでした」と謝罪する…。

これが、「自主的な申告」の最も可能性の高いシナリオです。

それは自発的な「自首」というより、法的に追い詰められた末の「降伏宣言」に近いものなのです。

 

この一連の手続きには、半年から1年以上の時間がかかり、弁護士費用も数十万から100万円を超えるケースも珍しくありません。

匿名だからと安心している投稿者は、水面下で着々と進むこの法的な包囲網に、ある日突然気づかされることになるのです。

 

 

賠償金は支払われなかった?「合意書」に隠された本当の価値

次に浮かぶ疑問は、「賠償金や慰謝料は支払われなかったのか?」という点です。

発表文に金銭に関する記述がないことから、支払われなかったか、あるいはごく少額であった可能性が考えられます。

 

これだけ聞くと「甘い」と感じるかもしれません。

しかし、STPRが受け取ったのは、目先の金銭よりも遥かに価値のある「未来の安全」を約束するものでした。

それが「合意書」です。

 

この合意書は、単なる反省文や念書ではありません。

双方の署名・捺印がある、法的な拘束力を持った「契約書」です。

そこには、おそらく以下のような内容が盛り込まれていると推測されます。

  1. 事実の承認と謝罪: 自身が誹謗中傷を行った事実を認め、被害者に対して謝罪する旨の文言。

  2. 接触禁止条項: 今後、被害者であるクリエイターはもちろん、STPR関係者に対し、SNSや現実世界での一切の接触・言及を禁じる約束。

  3. 違約金条項: もし再び同様の行為を行った場合、あるいは合意内容に違反した場合は、「罰として〇〇万円を支払う」という高額な違約金が設定されます。

  4. 親権者の連帯保証: 未成年者のため、保護者が監督責任を負い、違反した際の違約金の支払いなどを連帯して保証する旨の条項。

 

つまり、STPRは「今回は許すが、次に同じことをしたら裁判なしで多額の罰金を請求する」という、いわば「再犯防止の爆弾」を法的に仕掛けたわけです。

これは、一度きりの賠償金よりも、クリエイターの未来の活動を守る上で、遥かに強力な抑止力となります。

企業の目的が「報復」や「金儲け」ではなく、あくまで「所属クリエイターの保護」にあるからこその、極めて合理的な判断と言えるでしょう。

 

 

「処分が甘い」は真実か?模倣犯リスクと企業の高度な戦略

それでもなお、「今回の対応が、安易な模倣犯を生まないか?」という懸念は残ります。

「なんだ、未成年なら謝れば許してもらえるんだ」と曲解する者が出てくるリスクはないのでしょうか。

 

この点について、STPRの対応は「アメとムチ」を巧みに使い分ける、非常に高度な戦略に基づいていると考えられます。

 

 

「ムチ」としての警告

まず、STPRは発表文の中で「上記以外にも、当社所属クリエイターに対する誹謗中傷に関し、裁判手続きが進行中の事案も複数ございます」「今後も、民事上・刑事上の法的措置を含む毅然とした対応を実施してまいります」と、非常に強い言葉で釘を刺しています。

これは、世間に向けて「今回はあくまで例外的なケース。我々は決して手を緩めないし、あなたも明日は我が身かもしれない」という明確なメッセージを送っています。

今回の和解は、決して全ての加害者に適用される「免罪符」ではないのです。

 

 

「アメ」としての誘導

一方で、今回の解決事例は「アメ」の側面も持ち合わせています。

これは、現在も誹謗中傷を続けている他の加害者に対する、「出口」の提示です。

 

HIKAWA
「我々に見つけ出され、裁判で争い、高額な賠償金と社会的制裁を受ける前に、自ら過ちを認めて真摯に謝罪するならば、対話によって解決する道も残されている」

 

企業にとって、全ての案件を裁判で争うのは膨大なコストと時間がかかります。

それよりも、加害者が自ら名乗り出て問題を早期に解決してくれる方が、結果的に効率的です。

この発表は、水面下にいる加害者の自発的な行動を促す、一種の心理的な揺さぶりとも言えます。

 

 

では、大人が自主申告したらどうなるか?

ここで重要なのは、今回の措置が「相手が未成年だったから」という側面が大きい点です。

もし同じことをしたのが分別のある40代の男性だったら、たとえ自主申告したとしても、結果は大きく異なっていたでしょう。

 

成人には、自身の行動に対する完全な法的責任が伴います。

示談交渉のテーブルに着いたとしても、最低でもSTPRが費やした弁護士費用や調査費用、そしてクリエイターが受けた精神的苦痛に対する慰謝料など、相当額の金銭的支払いを求められる可能性が極めて高いです。

今回のケースは「処分が甘い」のではなく、「未成年者の更生の機会を考慮した、極めて限定的な特別措置」と理解するのが正しいでしょう。

 

 

まとめ

STPRの一連の対応は、単なる事後報告にとどまりません。

それは、誹謗中傷という根深い問題に対する、企業の確固たる哲学と戦略を示すものでした。

クリエイターを守るという絶対的な目的のために、時には法という「剣」を抜き、時には対話という「盾」を構える。

その柔軟かつ毅然とした姿勢は、所属クリエイターやファンに大きな安心感を与えたはずです。

 

私たちファンがこのニュースから学ぶべきは、第一に、問題を発見した際はクリエイター本人に直接伝えるのではなく、企業が設置した公式の窓口へ通報することの重要性です。

それが、専門家による迅速かつ適切な対応に繋がります。

 

そして最も大切なのは、この問題を他人事と捉えないことです。

誰もが情報の発信者となりうる現代において、私たちは加害者にも被害者にもなり得ます。

画面の向こうには、血の通った人間がいる。

その当たり前の事実を、私たちは時々忘れてしまいます。

 

指先ひとつ、軽い気持ちで放たれた言葉が、誰かの心を深く傷つけ、その人生を大きく揺るがし、そして最終的には法という現実的な重さとなって自分自身に返ってくる。

今回のSTPRの発表は、そのインターネット社会の厳然たるルールを、私たちに改めて突きつけているのかもしれません。