「このままでは、彼が卒業してしまうのではないか…」
今、にじさんじ所属の人気VTuber・小柳ロウさんのファンの間で、そんな悲痛な声が広がっています。
彼の配信、特にコメント欄は一部の過激なファンと他のファンとの対立で荒れ、それに対して小柳さん自身が強い不快感を示すという負のスパイラルに陥っています。
この状況は、多くの良識あるファンを疲弊させ、純粋な応援の気持ちさえも蝕み始めています。
今、何が起きているのか?
事の発端は、「MADTOWN(GTAストリーマーサーバー)」の配信のコメント欄が荒れたことにあります。
コメント欄が「ガチ恋」と呼ばれる、配信者に恋愛感情を抱くファンの過激な発言や、それに対する他のリスナーからの批判で溢れ、ファン同士が罵り合うという異様な光景が広がっていたのです。
これに対し、小柳ロウさん自身も配信中に「本当に嫌だ」「そういうのはやめてほしい」と、苛立ちや嫌悪感を隠さない場面が目立つようになりました。
そのあまりに率直で強い拒絶の言葉は、ファンに衝撃を与え、SNSでは以下ような悲痛な相談が相次いでいます。
「本当に嫌そうでこのままいったら辞めそうな雰囲気が漂っている気がして心配」
「本気で嫌がっているように感じ、本人が活動スタイルやコンテンツの内容を変えてしまうほどの弊害にもなっているのでは」
「見ているとどうしても問題がチラつきます。そんな気持ちをもちながらの配信活動にはどれだけの耐えが必要なのかと思うと段々と苦しくなってしまいました」
応援したいはずの推しが苦しみ、その原因が同じファンの中にいる。
そして、その状況を見続けることで自分自身も心を痛めてしまう。
まさに、誰も幸せにならないカオスな状況が生まれているのです。
なぜここまで深刻化したのか?
この問題は、単に「一部の迷惑なリスナー」のせいだと切り捨てられるほど単純ではありません。
そこには、彼の所属するユニット「ヒーロー」が持つ特有の背景と、コミュニティ形成の初期段階における、いくつかの「ボタンの掛け違い」が存在しました。
異文化の流入と”暗黙の了解”の崩壊
SNSなどでは、古くからのファンから「ヒーローのリスナーは、昔からのにじさんじファンというより、歌い手やアイドルといった他界隈から来た人が多い」という指摘がなされています。
これが事実だとすれば、問題の根幹には「文化の衝突」があったと考えられます。
長年の歴史を持つVTuber界隈には、ファン活動におけるいくつかの”暗黙の了解”が存在します。
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伝書鳩(鳩コメント)の禁止。
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他の配信者の名前を脈絡なく出さない。
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リスナー同士の過度な会話や自分語りは控える。
これらは、配信の流れを壊さず、全リスナーが快適に視聴するための知恵であり、多くのVTuberファンにとっては「常識」です。
しかし、異なる文化圏から来たファンにとって、これらは未知のルールです。
例えば、アイドル文化では「推しの名前を広める」ことが熱心な応援の証と見なされることがあります。
その感覚で他の配信で小柳さんの名前を出せば、それはVTuber界隈では重大なマナー違反(迷惑な宣伝行為)となってしまいます。
悪意なく、自分たちのいた文化の常識で行動した結果、意図せずコミュニティの和を乱してしまう。
そして、もしその新規層がマジョリティを形成した場合、従来のルールを指摘する古参ファンは「ノリが悪い」「自治厨」とレッテルを貼られ、孤立してしまいます。
こうして、コミュニティの自浄作用は失われ、マナー違反が「普通」であるかのような空気が醸成されていきました。
初期対応の不在と「負のスパイラル」
では、配信者側は何もできなかったのでしょうか。
ここに第二の要因があります。
どんなコミュニティでも、初期段階でのルールメイキングは極めて重要です。
しかし、「郷に入っては郷に従え」と言うには、その「郷のルール」が明確に示されなければなりません。
小柳さんや運営側が、デビュー当初のファンを増やしたい時期に、水を差すような厳しい注意喚起をためらった可能性は十分に考えられます。
「ノリが悪いと思われたくない」「ファンが離れてしまうかもしれない」という恐れは、活動者として自然な感情です。
「言わなくてもわかるだろう」という期待と、「注意することで角が立つ」というリスク回避。
この二つが重なり、明確なルールが提示されないままコミュニティは拡大していったように思います。
その結果…
- 「異文化からのファンの流入」→「”暗黙の了解”が通用しない状況の発生」→「配信者側が明確なルール提示や初期の注意喚起をためらった」→「マナー違反が”普通”になり、行動が増長」→「問題が深刻化し、配信者が耐えきれなくなる」
という、最悪の負のスパイラルが完成してしまったのです。
現在の小柳さんの強い拒絶反応は、この溜まりに溜まった「負の遺産」を一気に清算しようとする、悲鳴にも似た叫びなのかもしれません。
解決への3つの視点
過去を分析するだけでは、何も解決しません。
この泥沼化した状況から抜け出すために、私たちには何ができるのでしょうか。
「配信者」「運営」「リスナー」それぞれの立場で、具体的なアクションを考えてみましょう。
視点1:配信者(小柳ロウさん)自身が取るべき道
最も影響力を持つのは、やはり本人です。
精神的な負担は計り知れませんが、考えられる選択肢は主に3つあります。
- 毅然としたルールブックの制定と宣言
配信概要欄や動画で「私の配信における禁止事項」を明確に言語化・リスト化し、違反者は警告なくブロック等の対象となることを宣言する方法です。
曖昧さをなくし、行動の基準を示すことで、良識的なファンが守られ、迷惑行為を排除する正当性が生まれます。
当初の反発は避けられませんが、秩序を取り戻すための最も確実な一歩です。
- 物理的なコミュニケーション制限
一時的にコメント欄をメンバーシップ限定にする、特定のNGワードを徹底的に設定するなど、物理的に荒らしをシャットアウトする方法です。
本人の精神的負担を軽減し、クールダウン期間を設ける意味では有効ですが、「ファンを切り捨てた」と新たな火種を生むリスクも伴います。
- 対話による解決の模索
感情的な拒絶ではなく、「なぜ自分は困っているのか」「ファンにどうあってほしいのか」を冷静に、誠実に語りかける方法です。
理想的な解決策ですが、ファン同士が激しく対立している現状で、冷静な対話が成立するかは未知数です。
視点2:運営(ANYCOLOR社)に求められるサポート
この問題は、決してライバー個人だけに責任を負わせるべきではありません。
運営には、タレントを守るための強固なサポート体制が求められます。
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モデレーターの導入支援
運営が信頼できるモデレーターを任命・委託し、コメント欄の監視と管理を代行する。これにより、配信者はコンテンツに集中でき、精神的な負担も大幅に軽減されます。
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悪質ユーザーへの断固たる措置
行き過ぎた誹謗中傷や営業妨害に対しては、法的措置も辞さないという公式声明を出すことで、過激な行動を強く牽制できます。
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徹底したメンタルケア
言うまでもなく、最も重要です。専門家によるカウンセリングなど、疲弊したタレントの心を守るための具体的なケアが不可欠です。
視点3:私たちファン・リスナーができること
「自分一人が何かしても変わらない」と思うかもしれません。
しかし、個々の小さな行動の積み重ねこそが、コミュニティの空気を変える最大の力になります。
- 荒らし・対立コメントへの完全な無視
「私たちは間違ってない!」という主張にも、「お前たちは間違っている!」という正義感からの反論にも、一切反応しないこと。
コメント欄での議論は、荒らしにとって格好の「燃料」です。彼らは反応を楽しんでいます。
徹底したスルー(無視)こそが、彼らの意欲を削ぐ最も効果的な武器です。
- ポジティブなコメントによる空気作り
荒れたコメントが目に入っても、それに触れず、ただひたすら配信内容に関するポジティブなコメントを投稿し続けましょう。
「今のプレイすごい!」「この話面白いw」「今日の衣装かっこいい」…。
純粋な感想でコメント欄を埋め尽くせば、不快なコメントは自然と流れ、配信者が本当に見たい光景を作り出すことができます。
- SNSでの振る舞い
ファン同士の対立を公の場で煽らないこと。
問題について議論したい気持ちはわかりますが、それが新たな火種となり、本人や関係者の目に触れる可能性があります。
まとめ
小柳ロウさんを巡る一連の問題は、彼個人や特定のファンの問題に留まらず、VTuberという「ファンとの距離が近い」コンテンツが常に抱える構造的な課題を浮き彫りにしました。
今、多くのファンが感じている「辛さ」や「苦しさ」は、彼を心から応援したいという純粋な気持ちの裏返しです。
その気持ちを、ファン同士の対立や批判に向けるのではなく、どうすれば彼が安心して活動できる環境を作れるか、という建設的なエネルギーに変えていく必要があります。
配信者が毅然としたルールを示し、運営がそれをシステムで支え、ファンは徹底したスルーとポジティブな応援で応える。
この三位一体の連携こそが、混沌とした現状を打開する唯一の道ではないでしょうか。
「推しは推せるときに推せ」という言葉があります。
それは、ただコンテンツを消費することだけを意味するのではありません。推しが輝き続けられる「場所」を、ファン自身の手で守り育てることもまた、本当の意味での「推し活」なのかもしれません。