「推しのVTuberの歌枠、あの感動の瞬間を切り抜いてみんなに共有したい!」
ファンであれば、そう思ったことが一度はあるかもしれません。
しかし、同時に「歌枠の切り抜きは著作権的にNG」という話もよく耳にします。
一体何が正しくて、どこからがアウトなのでしょうか?
「トーク部分だけなら大丈夫?」「概要欄に『切り抜きNG』って書いてあったら?」「でもTikTokではよく見るけど…?」
この記事では、そんな歌枠の切り抜きに関するあらゆる疑問を解説していきます。
歌枠切り抜きの基本ルール:トークはOK、歌はNG
まず、この記事の結論からお伝えします。
歌枠の切り抜きに関する基本ルールは、非常にシンプルです。
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トーク部分の切り抜き → 基本的にOK(ただし条件あり)
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歌部分の切り抜き → 原則NG
「え、どうしてそんな風に分かれるの?」と思いますよね。
その理由は、切り抜く対象に「誰の権利が関わっているか」が根本的に違うからです。
これから、それぞれの理由を詳しく見ていきましょう。
なぜ「トーク部分」の切り抜きはOKなのか?
歌枠の合間に行われる雑談やコメント読みなどの「トーク部分」。
これが基本的に切り抜きOKとされる理由は、その著作権がシンプルだからです。
権利の所在を理解しよう
トーク部分の著作物(話している内容や表現)に関する権利は、基本的にその配信者本人、または所属する事務所にあります。
そして、多くのVTuberや事務所は、ファンによる切り抜き動画を「ファン活動の一環」「プロモーションの一助」として歓迎し、許可しています。
切り抜き動画がきっかけで新しいファンが増えることも多いため、双方にとってメリットがあるのです。
要するに、トーク部分は「Vtuber事務所のガイドラインのルールに従えば良い」ので、ガイドラインで切り抜きOKしている事務所所属Vtuberであれば、トーク部分の切り抜きは可能となります。
必ず「切り抜きガイドライン」を確認しよう
ただし、「許可している」からといって、何でも自由にやっていいわけではありません。
ここで最も重要なのが「切り抜きガイドライン」の存在です。
にじさんじやホロライブといった大手事務所はもちろん、個人で活動するVTuberの多くも、切り抜き動画作成に関するルールを定めています。
これらは公式サイトや、各タレントのYouTubeチャンネル概要欄、X(旧Twitter)のプロフィールなどに明記されています。
ガイドラインには、主に以下のような内容が定められています。
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収益化の可否: 切り抜きチャンネルで収益を得て良いか、その条件は何か。
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クレジット表記: 元配信のURLやチャンネル名などを、動画の概要欄に必ず記載すること。
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対象コンテンツ: メンバーシップ限定配信など、切り抜きが禁止されているコンテンツの指定。
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表現に関する注意: 悪意のある編集や、事実を捻じ曲げるような表現の禁止。
切り抜き動画を作成する前には、必ずこのガイドラインを隅々まで読み、ルールを遵守することが絶対条件です。
なぜ「歌部分」の切り抜きはNGなのか?
さて、ここからが本題です。
トーク部分はOKなのに、なぜ「歌部分」の切り抜きはNGなのでしょうか。
その背景には、「音楽著作権」が関わっています。
「配信者は歌えるのに、なぜ切り抜きはダメなの?」
この疑問こそが、多くの人を混乱させる最大のポイントです。
その答えは、「ライセンス(利用許諾)の範囲」が、配信者と切り抜き投稿者とで全く違うからです。
- 配信者の場合:プラットフォームの「包括契約」で守られている
- 実は、YouTubeやTwitchといった配信プラットフォームは、JASRACやNexToneといった音楽著作権管理団体と「包括的な利用許諾契約」を結んでいます。これは、ざっくり言うと「YouTubeという場所で、JASRACが管理する曲を使うなら、まとめて使用料を払いますよ」という契約です。この契約のおかげで、配信者は個別にJASRACへ許可を取らなくても、「生配信」や「その配信のアーカイブ」の中で、許諾された楽曲を歌うことができるのです。つまり、プラットフォームが配信者の代わりに、著作権料を支払ってくれている状態と言えます。
- 切り抜き投稿者の場合:「包括契約」の対象外
- 一方、あなたが歌の部分を切り抜いて、自身のチャンネルに「新しい動画としてアップロード」する行為は、このプラットフォームの包括契約の対象外となります。あなたはJASRAC等と個人的に契約を結んでいません。それなのに、楽曲(メロディーや歌詞)が含まれた動画をアップロードする行為は、「無断で楽曲を複製し、インターネット上で公開している(公衆送信している)」ことになり、これが著作権法に違反する行為となってしまうのです。
Vtuberさんは歌う許可が取れている。
一方で切り抜き側は、その許可が無いからダメ、ということです。
歌部分を切り抜いてしまった場合のリスク
もし歌部分を含む切り抜き動画をアップロードすると、どうなるのでしょうか。
多くの場合、YouTubeの自動検出システム「Content ID」が動画をスキャンし、使用されている楽曲を特定します。
そして、その楽曲の権利者(レコード会社など)に通知が行き、以下のような措置が取られる可能性があります。
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動画のブロック: あなたの動画が特定の国、あるいは全世界で再生できなくなります。
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広告収益の剥奪: あなたの動画に広告が表示され、その収益はすべて著作権者に支払われます。
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著作権侵害の警告(ストライク): 最も重いペナルティです。著作権者からの直接的な申し立てにより、あなたのチャンネルに「ストライク」が付きます。これを90日以内に3回受けると、あなたのチャンネルは永久に停止(BAN)されます。
軽い気持ちでアップロードした短い歌のクリップが、あなたのチャンネルを失う原因になりかねないのです。
また、こうしたトラブルは、巡り巡って配信者本人や事務所に迷惑をかけてしまう可能性もゼロではありません。
「この配信は切り抜きNG」の意味
全体の切り抜きガイドラインとは別に、時々、特定の配信の概要欄に「この配信は切り抜きNGです」と書かれていることがあります。
この場合、どうすれば良いのでしょうか?答えは一つです。
トーク部分であっても、その配信からは一切の切り抜きをしてはいけません。
全体のガイドラインでは切り抜きがOKでも、個別の配信で禁止が明記されている場合は、そちらの指示が最優先されます。
これは「いつもはOKだけど、今回だけは特別な事情があってNG」という配信者からの明確なメッセージです。
ファン側で「歌がダメなだけだろうから、トークならいいや」と勝手に解釈するのは絶対にやめましょう。
NGに指定されるのには、私たちが知り得ない様々な理由が考えられます。
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ゲストが出演しており、ゲスト側の事務所の都合がある
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非常にデリケートな話題や、内輪ノリが強すぎる話をしている
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後日、公式が編集した動画として公開する予定がある
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配信者自身が「この配信は、切り取らずに全部通して見てほしい」と強く思っている
理由が何であれ、「NG」という意思表示をそのまま受け取り、尊重することが、ファンとしての最も正しい姿勢です。
なぜTikTokでは歌の切り抜きが横行しているのか?
この現状に、矛盾を感じている方も多いでしょう。
結論から言えば、TikTokだからといって特別に許可されているわけでは全くありません。
著作権法は、YouTubeだろうがTikTokだろうが、等しく適用されます。
TikTokで歌の切り抜きが蔓延しているように見えるのは、プラットフォームの特性とユーザーの誤解が生んだ、極めてグレーな現状があるからです。
プラットフォームの文化と「公式音源」の誤解
TikTokは、アプリ内に用意された楽曲(音源)を使って動画を投稿するのが基本の文化です。
このアプリ内の楽曲は、TikTokがレコード会社などと正式に契約を結んで提供している「公式音源」です。
ユーザーは、この公式音源を使っている限り、著作権を心配する必要はありません。
この「公式音源が自由に使える」という点が、大きな誤解を生んでいます。
多くの人が、「TikTokは音楽に寛容だ」→「だから、どんな音楽を使っても大丈夫だろう」と拡大解釈してしまうのです。
しかし、配信者が歌ったアカペラやカラオケの音源は、TikTokが提供する「公式音源」では全くありません。
それは、YouTubeの時と同じく、権利処理がされていない無許可の音源なのです。
検出システムと罰則イメージの違い
YouTubeの「Content ID」は非常に強力で、違反を厳しく取り締まります。
「3ストライクでチャンネルBAN」という厳しい罰則も広く知られています。
一方でTikTokは、動画が数十秒と短いものが多く、YouTubeほどの強力な自動検出システムをすり抜けやすい側面があります。
また、ペナルティも「動画の削除」や「音源のミュート」が主で、「即アカウント停止」というイメージが薄いため、「バレても動画が消されるだけ」と安易に考えて投稿するユーザーが後を絶ちません。
「やったもん勝ち」の悪循環
こうした背景から、ルールを無視した歌の切り抜き動画が大量に投稿され、その一部がバズってしまうことがあります。
それを見た他のユーザーが「なんだ、やってもいいんだ」と勘違いし、さらに模倣犯が増える…という悪循環が生まれているのが現状です。
TikTokで削除されずに残っている動画は、単に「まだ著作権者に見つかっていない」か、「著作権者が見逃している(いつでも削除できる状態)」に過ぎません。
決して、それが許可された行為である証明にはならないのです。
まとめ
最後に、この記事の要点をもう一度確認しましょう。
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トーク部分の切り抜きは、公式ガイドラインを必ず確認・遵守した上で行う。
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歌部分の切り抜きは、著作権侵害のリスクが極めて高いため、絶対にやめる。
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配信概要欄などの個別ルール(「切り抜きNG」など)は最優先で守る。
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TikTokも例外ではない。「みんなやっているから」は通用しない。
推しの素晴らしい歌声を誰かに伝えたい、という熱い気持ちはとても尊いものです。
しかし、その方法がルール違反であっては、結果的に推しに迷惑をかけてしまうかもしれません。
感動を共有する方法は、切り抜き動画だけではありません。
SNSで感想を叫んだり、元配信のURLとタイムスタンプを貼って「ここの歌が最高だから聴いて!」と布教したりすることも、立派で安全な応援活動です。
正しい知識を身につけること。それが、あなた自身と、あなたの大切な推しを守ることに繋がります。
ルールとリスペクトを忘れずに、これからも楽しいファン活動を続けていきましょう。